本質に迫るー甲賀吉郎

社会や経済の事象を一歩掘り下げて考えるブログ

高齢ドライバーは本当に危険なのか?

最近、テレビ各局で高齢ドライバーの交通事故に関する報道が連日取り上げられているが、情緒的で世論誘導的な画一性が感じられたので、ちょっと数字を検証してみた。尚、適正な免許返上の促進には賛成の立場であるが、総論としての妥当性を論じるものである。


1-2週間くらい前からの報道の元になったのは、都内の交通事故件数の推移に関するデータであった。
交通事故総件数が、ここ10年で半分になっているにもかかわらず、65歳以上の高齢ドライバーが関与した割合は実に2倍になっている。このデータをもとに、事故を起こしやすい高齢ドライバーへの対策が早急な課題だと結論づけている。

 

これらの報道の数値データは、下記となるが、警視庁交通総務課の統計データと思われる。
               総件数    高齢ドライバー 
           事故関与割合 
2005年 80,633件 10.5%    
2014年 37,184件 20.4%       


本当に高齢ドライバーが運転の荒い若手に比べて事故を起こしやすいのだろうか? 可能な範囲で大胆に検証してみたい。
東京都を走行している自動車のドライバーの年齢別割合が欲しいところが、それは無理なので、警察庁交通局運転免許課の統計から、原付以上の運転免許統計を拾うこととする。以下高齢者は、65歳以上と定義。

全国では、
              免許総数  内高齢者数 高齢者割合
2005年 78,798,821     9,765,000   12.4%
2014年 82,076,223 16,389,000   20.0%
高齢ドライバーの割合が、ここ10年で倍近く増加していることがわかる。

東京都の統計は、最近のものしかないので、
2014年  7,717,150      1,099,203    14.2% 
である。東京は全国平均より免許証保有者は若いことがわかる。

都市部では、若手のペーパードライバー化が相当進行しており、実ドライバーでは高齢者が多いことと、東京では他府県籍の運転免許証ドライバーも多いことを考慮して、
2014年の東京都走行ドライバーの高齢者率を、全国と東京の免許保有率の2/3だけ全国よりとすると、18.0%になる。2005年は、全国の免許保有率データの比率と同じとしえ、18% * 12.4/20 = 11.1% となる。

 

              総件数  高齢ドライバー 高齢ドライバー 高齢ドライバー 高齢危険率(A/B)
        事故関与割合   事故件数   比率     
                                     A                                           B                       A/B                        
2005年 80,633件 10.5%   8,466件       11.1%                     0.95
2014年 37,184件 20.4%           7,586件          18.0%                    1.13

となる。
(1)警視庁統計実数でも、高齢ドライバーが関与した交通事故は、高齢ドライバー数増加にかかわらず、ここ10年で絶対件数は減少している。
(2)ここ10年で高齢ドライバー比率が大きく増大しているので、事故件数に占める高齢割合Aは当然増大している。
(3)これを考慮した65歳以上の高齢ドライバーの64歳以下の平均に対する危険率A/Bは、2005年は0.95で高齢者の方が64歳以下の平均より安全だったが、2014年では13%ほど高齢者が高い。

ちなみに、年齢別の危険率に直結する自動車保険データ(自動車保険相場NAVIから)では、最も安全な壮年運転者26-59歳の保険料を1.0とすると、
20歳以下  1.65
21-25歳    1.33
26-59歳    1.00
60-64歳    1.14
65歳以上       1.19

ここでも、65歳以上の危険率は、壮年運転者の19%増しであるので、上記の大胆な推測データはそこそこ妥当と考えられる。10年前は、若手の危険率が高い影響で64歳以下平均よりも高齢者は安全だったが、最近は高齢者が増えたので、さすがに64歳以下平均よりは危険になったと考えられる。

高齢ドライバーは、壮年ドライバーよりも1-2割危険だが、運転の粗い若手ドライバーよりは安全である、というのが総論評価になろう。こちらのほうが総論では実感にあっている。

個々の事例では、高齢者は、大幅なスピード超過やあおり運転やぎりぎりの車線変更や無理な追い抜きなどのよく知られた危険行為はほとんどないが、逆走や信号見落としなどの、これまではあまり知られてなかった事例が驚きをもって報道されるので、ニュースとして目立っていると思われる。


次に、なぜ高齢ドライバー危険キャンペーンが時々行われるているかを考えると、当局にとって、現状の環境で最も簡単な交通事故件数減対策が、増加した高齢ドライバーの運転機会を減少させることであるからと、政府レベルの法制整備の観点で、運転不可能なレベルの認知症ドライバーの免許停止実施には、生存のために運転が必要な弱者対策の世論に抗する世論づくりが必要であるからと思われる。実際、後者の法制化が、現在進行中である。

これはこれで理解できるが、メディア側の冷静な補完がほどんどできていないので、将来の社会インフラ整備の議論がされていないのが残念である。

要点をあげると、
・現在の自動車システムは、優れた移動、運搬システムで、人間の生活に不可欠なものとなっている。
・ハンディの方(車椅子の方)も、自動車の手動運転で救われるようになってきた。
・さらに進めて、視力や色認知の不具合なども、救える自動車システムになっていくべきである。
・動体視力レベル、手足の反応レベル、判断スピードなどは、全般に高齢化で衰えるが、一律ではなく個体差もかなり大きい。全運転者の免許更新時に、シミュレーターチェックして、数値化すべき。これが適正な免許返上につながる。
・運転する場面の経験蓄積による周囲の状況変化予測なども重要な要素。シェアエコノミーで必要な時だけ慣れない車を借りて運転する社会では、ドライバーのレベルが次第に下がるのでシステムとしての補完が必要になってくる。


最終的には、完全自動運転の"きんとんうん"システムが目標であろうが、
その前の、半自動運転レベルでも、自動車、自転車、道路、歩道、信号、歩行者、車椅子、低速モビリティ等で、IoTとAIでよりよい自動車社会システムが構築可能なはずである。そのための議論をメディアは世論喚起すべきだろう。社会の生産性が飛躍的にあがる可能性もある。メディアの建設的な活動に期待したい。